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「土用のウナギ」を売り出した先人達


 ウナギの養殖は、明治12年(1879)に東京深川の千田新田で服部倉次郎が試みたのがはじまりとされています。明治33年(1900)に彼が養殖の立地条件が整った浜名湖地区に移り、浜名湖周辺での大規模養鰻の嚆矢となりました。現在の養殖ウナギの収穫量は鹿児島県がもっとも多く、次いで愛知県・宮崎県・静岡県・高知県の順となっています。また日本の近隣では、台湾・中国・韓国の養殖も盛んです。とくに中国の養殖では「アンギラ・アンギラ」という「ヨーロッパウナギ(業界では通称フランス)」が使用され、現在日本で消費されているウナギの約80%が「ヨーロッパウナギ」であるといわれています。ヨーロッパウナギは古代ギリシアやローマでも食されていて、紀元前425年に上演されたギリシア喜劇でアリストパネスの作品『アカルナイの人々』にもその場面が登場しています。欧州でもウナギはよく食べられていて、ドイツのハンブルグ名物「アールズッぺ」というウナギのスープや、スペインのシラスウナギのから揚げは有名です。

 「土用ウナギ」の考案者は江戸時代の科学者・平賀源内だといわれています。町内のウナギ屋に頼まれて看板を書いたとき、ちょうど土用の丑の日だったので、「本日土用の丑の日」と大書したのが大当たりしたという話が伝わっています。そのほか、戯作者・大田南畝(蜀山人)が流行らぬウナギ屋に義侠心を出し、土用の丑の日に「本日食べれば一年中無病息災」と書いて張り出したという説などもあります。そもそも土用とは、中国から伝わった陰陽五行説にのっとって、天地間のすべての事象を「木火土金水」の五つの要素に置き換えたときに、四季も「春=木」「夏=火」「秋=金」「冬=水」とし、「土」は春夏秋冬のそれぞれの終わり18日間、年間72日間(4回×18日)としたことから生まれました。現在では立夏、立秋、立冬、立春の前日までを土用の日(18〜19日間)としています。また土用のそれぞれの日には十二支が一日ごとに割り当てられているので、夏の「土用の丑の日」が2回くる年もあり、2回目のほうを「二の丑」などと呼んでいます。

【うなぎ・完】

>> 伊澤宏樹 <<
1971年生まれ。青山学院大卒業。出版編集者。「堂々日本史」「その時歴史が動いた」「村上龍文学的エッセイ集」や百科事典などの担当を歴任。
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