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バターの品不足から酪農を考える


 日本の農村地帯のイメージといえば田植えのあとの一面緑の絨毯を敷き詰めたような田園風景を思い起こす。

 一方、なだらかな丘陵地帯に広がる牧草畑からは外国の田園風景を連想させる。日本国内ならば北海道の景観がそれにあたるだろう。

 前回も書いたように埼玉県内には370軒もの酪農農家があるが、その存在はそれほど身近に感じることが少ない。酪農農家に限らず畜産農家は臭い、騒音(鳴声)、衛生(糞尿)の面から、畜産農家を一箇所に集めた、畜産団地のような集合化がすすんでいるケースが多い。場所も人家から離れたところが多いためだろう、畜産農家に身近に接することはあまり多くない。

 「榎本牧場」もこれまで上尾市の市街化区域の外れにあった場所から1974年に現地に移転してきた。牛舎の川を隔てた向こう側には、広大な牧草畑が広がり、牧草の運搬に便利なところに引っ越してきたことになる。

 現在「榎本牧場」は乳牛の餌の約50%を占める牧草を完全自給している。残りの半分は海外からの輸入に頼る配合飼料とおから、ビール、醤油などの絞りかすを給餌している。

 エタノール燃料の原材料としてトウモロコシが使われ、その分家畜の飼料として使われるトウモロコシが不足して、輸入飼料は頻繁な値上げにさらされている。200〜300頭を飼育する大型酪農農家はいずこも牧草を外部から購入していることもあって、輸入飼料の値上げは即、餌代のコスト増として跳ね返ってくる。

 牧草は生乳の脂肪分を高めるが、配合飼料は乳量の増加をもたらす。そのため生産量の確保に輸入飼料は欠かすことができない。その配合飼料の世界的な値上がりで、輸入の割合が高い業務用バターなど加工乳製品がジワジワと昨年から値上がりし始めていた。

 割安感が薄れた輸入品から、大手食品会社が国内産バターを乳業メーカーから仕入れ始め、そのあおりを食った中小の製パン会社が調達先としてスーパーからバターを購入し始めた。その結果、家庭用バターが貧乏くじを引いたように品薄になったというのが事の真相と新聞等で報じられている。

 一昨年、北海道でだぶつき気味の生乳を大量に廃棄したことはまだ記憶に新しいが、牛乳の需要減に対応して生乳の生産調整が毎年行われてきた。牛乳の需要はここのところ減少傾向が続いているが、その原因は人口の減少と牛乳以外の健康飲料など、飲料の多様化の影響を受けている。生乳の前年比生産減が続くなか、今回のような家庭用バターの品不足が起きても、急に生乳の生産量を増やすことはできない。自然の生き物の前では人間の都合だけが優先されることは許されない、というあたりまえの教訓が示されたバター不足問題である。


生乳と牛乳


 牛乳を生産する農家のことを酪農農家と私たちは考えている。しかし、正確には酪農農家が乳牛の乳を搾り、出荷するまでは「牛乳」とは呼ばず「生乳」と呼んでいる。生乳は乳業メーカーが殺菌処理などを施してはじめて「牛乳」として販売している。

 その生乳を酪農農家から集荷し、乳業メーカーに販売をしているのが北海道を除く全国8ブロックに分かれた農林水産大臣の指定団体である生乳販連という名称の協同組合である。「榎本牧場」の生乳は関東生乳販連によって近隣酪農農家3〜4軒の生乳とともに1台のタンクローリーで川越クーラーステーションに日々運ばれる。集められた生乳はタンクローリー単位で各種検疫検査、成分検査が行われ安全性が確保されている。これとは別に個々の酪農農家の生乳は10日ごとに栃木県に集められ、一元的に同様の検査が行われている。

 これにより関東生乳販連加盟の一都八県(山梨、静岡両県を含む)の全酪農農家の検査結果が集中管理され、その検査結果に基づいて個別農家ごとに生乳単価がきまってくる。乳業メーカーに販売した生乳は個別農家の単価と出荷量をかけたものが酪農農家の販売金額として関東生乳販連から支払われる仕組みになっている。


 北海道を除いた本州8ブロックの生乳販連は大半を飲用向けの牛乳として乳業メーカーに販売している。かたや北海道の生乳量は全国の生産量の50%弱を占め、生乳は牛乳用以外に、バター、生クリーム、チーズの4つの用途別に原料として使われるが、対乳業メーカーへの販売価格はそれぞれ異なる。販売価格の高さは、牛乳、生クリーム、バター、チーズの順番である。高い牛乳と一番安いチーズとの価格差はほぼ倍ほどの開きがある。

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