農業体験の意味
先日、スイスでいま評判の暗闇レストランがNHKのある番組で紹介されていました。
この一風変わったレストラン、お化け屋敷のような入り口を一歩はいると、完璧な闇の世界で、客は互いに体を触れ合いながら、恐る恐るテーブルのありかを手探りで探しあてねばならなりません。メニューはもちろん見えないので、入る前にあらかじめ、オーダーをしていくので問題はありません。
ウエイトレスはというと、これが暗闇の中で苦もなく料理をテーブルに運んできます。特殊な暗視めがねでもかけていると思うでしょう。ここの経営者から従業員まで、実はすべて盲目の人たちです。
客は皿を目の前にして(目の前だと思う)フォークやスプーンのありかも定かではなく、手探りで手にとり、皿の端を持って、料理のありかに見当をつけながら食べるのです。
なんとも、いらいらしそうなこのレストラン、なぜこれが評判になるのかとても不思議でした。
料理は目で食べるもの、という常識を持った健常者には、目が見えないことでかえって味覚神経が研ぎ澄まされ、料理の味がとてもよく解かるのだそうです。さらに、目が見えない分、会話がはずみ、料理を味わいながら会話をいっそう楽しむことができるのだそうです。健常者には新たな食事の楽しみ方を発見できて、評判になったという内容でした。
当NPOは体験型イベントを「米作り」、「蕎麦作り」で実践していますが、体験の意味をこう捉えています。
「体験とは相手の立場に立って物事を考えられる、有効な手段であること」だと考えています。人間、ある程度は想像力で物事を捉えることはできます。しかし、それには当然、限界があります。
目の見えない不便さは、家の中で両目を閉じれば至極簡単に体験できます。しかし、それは目の見えない不便さだけが強調されるだけで、スイスのレストランのようなプラスの側面はまず、体験することは難しいことと思います。ある一面だけを理解することは本当の理解には至らないと思います。
有機農産物にこだわる主婦グループが、有機栽培をゆだねている農家に夏の雑草とりのボランティアに出かけたときの話です。真夏のじりじりした炎天下、とってもとっても生えてくる雑草と格闘しながら、主婦たちはくたくたになったそうです。言うは簡単、やるは難しの見本のような農作業ですが、音を上げた主婦が雑草を取るなら、除草剤をまいたほうが早いと農家の人に迫ったそうです。
おそらく、つい本音を言ってしまった主婦は自分の発言に恥じたことでしょう。
頭でわかったことと、実際にやることでは理解の度合いが全く違ってきます。食の安全と信頼、自給率アップなど、今日の農業が抱える問題を考えるとき、作り手の立場にたって考えることができるか否かで、ものの見方はずいぶんと変わると思います。
来年も体験にこだわって継続的にイベントを行う予定です。「米作り」体験は5月から、「蕎麦作り」体験は8月の種まきから始める予定です。ぜひ体験を通して食の問題を考えてみてください。
編集後記
快晴の土曜日、久しぶりに渋谷の代々木公園ケヤキ並木で開催中の「東京朝市・アースデイマーケット」に出かけてきました。
「東京朝市」はこの頁でもすでに、何回か紹介していますが、東京都内をはじめ主に関東エリアでがんばっている農家・生産者が一同に集い、来場した消費者と直接対話・交流ができるユニークなファーマーズマーケットとして、すっかり定着してきたようです。
この日も、季節感あふれる旬の食材・農産物が竹テントの店頭にところ狭しと並べられ、犬連れ、子ども連れの大勢の老若男女で賑わっていました。関係者の話によると今回の出展者数は59店舗と過去最高だったとか。50年か100年に一度という経済混乱もどこ吹く風といった盛況ぶりでした。
何よりも出展者の生産者の生き生きとした眼差しと明るい笑顔、来場客とのフレンドリーな会話があちこちで展開され、不況を乗り越えるヒントも案外こんな場にあるのかな、と思わせるような心和む光景でした。12月20日(土)が今年最後の朝市です。一度、代々木公園ケヤキ並木に足を伸ばされてはいかがでしょうか。お勧めです。