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農のある暮らし

2011年6月5日 更新

第1章 男の自立

家庭は「地域社会」のベース


「地域社会」に溶け込む前に、いや溶け込もうとするならばまず「家庭」なかでも配偶者との関係性を整理しておく必要があります。なぜなら「家庭」は地域社会を構成する基礎単位だからです。

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団塊世代を含めそれ以前の世代は「男は外で働き、女は家庭を守る」ことが普通のことと考えられてきました。いわゆる役割分担の考え方です。

我が家の場合長男が3歳になったとき、妻はしきりに外で働くことを望んでいました。しかし私はきっぱりと反対しました。その理由は私の妻はいわゆる何事もてきぱき処理できるキャリアウーマンタイプではなく、むしろ家事と育児でアップアップの状態でした。そんな状態で働きに出ても仕事と家庭がそれぞれ中途半端になると判断したからです。夫婦共稼ぎになれば息子を社会問題化し始めたいわゆる「鍵っ子」にしてしまうことを心配したのも反対の理由でした。そのうち長女が生まれますます妻は家事と育児においまくられて、妻が希望する外で働く話は自然消滅してしまいました。以来妻は30年以上専業主婦の道を歩んできました。

さて夫の定年退職を境にこれまでの「男は外で働き、女は家庭を守る」という役割分担制が根底から崩れることになります。夫は外で働く機会を失い、残るのは妻の「家庭を守り」続ける仕事だけになります。

ある調査結果によれば夫は定年退職を楽しみにしていますが、妻は夫ほど楽しいと感じてはいないようです。むしろ妻は夫が常に家にいることをうっとうしく思っています。

そう思ってしまうのはおそらく妻自身が家事は夫の退職後も自分任せのままという暗黙の前提にたっているからです。「夫は仕事、妻は家庭」という性別役割分担の考え方を夫婦ともに払拭できないからだと私は見ています。

夫の退職により二人に残る仕事は家庭の仕事(家事)だけになるのに、あいも変わらず家事は妻の役割としてそのままであれば、妻は面白く感じないでしょう。しかし現実には完全に家事を二分割して半分を夫にやってもらおうと考える妻は少ないのではないでしょうか。

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その理由は夫が突然家事をやれるはずがないという思い込みと、中途半端に家事をやってもらってもかえって迷惑と思っているからです。

仮に家事を積極的に協力する理解ある夫でも妻は自分のやり方とは異なり、夫のもたもたした手さばき、動作を見ているとつい、夫任せにせず自分でやったほうが数段楽だと考えてしまいます。

最悪なのは妻が自分の仕事の領域を夫に侵されるという心境になってしまうケースです。これは性別役割分担を妻自らが固定化してしまい、夫に家事を分担させるのはほとんど不可能にしてしまいます。

「夫は仕事、妻は家庭」という性別役割分担の考え方を改めることは夫も妻もともに相当な努力と忍耐を求められることになります。

理想を言えば妻は夫の退職前から、夫に徐々に家事を手伝わせ、家事教育をしていくべきなのでしょう。もちろん退職後でも夫に対する家事教育をしてもけして遅くはありません。

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その場合夫と妻の双方が気をつけなければならないことがあります。

まず夫のほうですが、家事を手伝ってあげているという意識をもってはいけません。一つの仕事を二人でシェアするという意識でなければうまくはいきません。そして大事なことはシェアした仕事は最初から最後までやり通すことです。

例えば、日を決めて食事つくりをシェアしたとします。買い物は妻に任せ、夫は調理だけを行い、食後のあらいものと片付けは妻任せ、というのはいただけません。事前準備と後始末は妻にやらせ、メインの調理だけを夫が担当するというのはいいとこどりの不公平になります。買い物は恥ずかしいから、プライドが許さないからといってスーパーでの買いものを渋るようでは失格です。

洗濯も同じです。家のなかで洗濯機は回しますが、ベランダで妻の下着を干すのはみっともないという人がいますが、これも論外です。妻の着る物を洗濯するのが気持ち的に引っかかるようなら、せめて自分の洗濯物だけを洗い、干すようにすればいいのです。

そしてもっとも大切なことは夫はシェアした仕事を完璧にこなしたと思わないことです。

長年、家事をやってきた妻の目からは夫の仕事は雑にしか見えません。昔から言われてきたように掃除一つにしても「四角い部屋を丸く掃く」というケースで家事に不慣れな夫は細かいところに気づきません。家事に関して夫は何もわからない新入社員の立場であり、妻は大ベテランの先輩社員なのです。したがって夫は教えられることは謙虚に受け止め、速く一人前になるよう努力しなければなりません。かたや妻も夫を気遣うことを忘れてはいけません。

何せ相手は家事についていえば右も左もわからない新入社員ですから、懇切ていねいに教えてあげることです。

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あまりに飲み込みが遅く、出来が悪い新入社員でもけして怒らず、まして自分でやったほうが早いとばかり仕事を取ってしまうのは自分で自分の首を絞めているようなものです。

自分のやり方を一方的に押し付けてはいけません。夫のやり方が理にかなっているなら、認める寛容さをぜひもってください。会社同様、一人前の社員に育てるには時間と忍耐とお金が必要です。

これまでの性別役割分担を夫の退職を機にリセットしたいと考えるならば、妻はけして自分の仕事を夫に取られると思ってはいけません。


さてここでは自立をテーマにしてきましたが、あらためて自立とはどんな意味なのでしょうか。それは「他への従属から離れて独り立ちすること」、あるいは「他からの支配や助力を受けずに、存在すること」ということです。

赤ちゃんが自分の足で歩き出し、自我が芽生えてくると最初の親離れ行動を示し始めます。赤ちゃんの場合は文字通り自分の足で立つわけですから生まれて最初の自立といえましょう。

学生から社会人になると子供は家をでて一人暮らしを始め、あるいは結婚して新しい所帯を持ち親から経済的な自立をします。

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そして子供を自立させた夫婦は夫の退職後、第二の人生のスタートを切ることになるわけですが、いつまでも夫婦二人三脚で人生を過ごすことは出来ません。

最悪の場合、妻が先立つこともあります。あるいは妻が長期に入院生活をおくることもあります。妻が友人と国内旅行や海外旅行で家を空けるときもあります。あるいは嫁いだ娘さんに子供が産まれ、孫の世話で家を留守がちにすることもあるでしょう。

そんな時、洗濯機をまわしたこともない、そうめんを茹でたこともない、一人でスーパーに行って買い物をしたことがない、小さな子供以上に手がかかる夫を妻はどう思うでしょう。私が仮に妻の立場だったら、そんな夫には即座に三行半を突きつけたくなります。

「地域社会」に溶け込む努力の前に夫はまず家のなかでの自立を目指すべきでしょう。





※本レポート中の写真と本文の内容は直接関係はございません。