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農のある暮らし

2011年10月5日 更新

第2章 働き方を考える

心地よい肉体労働の疲労感


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いの一番に購入した一輪車

前回お話したとおり、畑の借り受けた2月5日から4月5日のオープまでの約40日間にやるべきことは二つありました。

一つは畑の手入れと施設の準備、もう一つは会員募集です。

畑を借り受けるときの条件として化学肥料は一切使用せず、有機肥料に限ること、農薬は絶対使用してはならないことでした。

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開園準備に協力してくれたTさん(右)とNさん〈左〉

元肥料として使ったのが三富地区に広がる雑木をチップにしたものに鶏糞を混ぜ合わせて発酵させた完熟堆肥です。

市内の業者から2トン運んでもらい、うずたかく野積みされた堆肥の山にスコップを入れ、それを一輪車に載せて畑全体に均等にスコップでふりまきます。この作業を30〜40回は繰り返したでしょうか、ふわふわの畑の中に堆肥を乗せて重くなった一輪車を乗り入れるのがかなりな重労働です。この作業をたった二人でやり遂げたのですが、手伝ってくれたのが私よりちょうど10歳上のTさんです。

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小屋つくりは3本の支柱をたてることから始まった

Tさんは元製薬会社勤務の方ですが健康そのもの、今でも一日2千メートルを泳ぐほど鍛えた肉体年齢は私よりはるかに若く、健康診断でも何も悪いところがないという稀有な人です。

私が一輪車担当でTさんが堆肥をふりまく担当でしたが、後日Tさんの語るところによれば、これほどきつい作業は初めての経験だったようです。

作業は日が短い3月はじめの頃でしたが、午後一番からはじめた堆肥まきは薄暗くなる夕方まで休みなく続いたのです。

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壁をベニヤで作る

畑の準備もやっと形になり、あとは石灰と2種類の有機肥料をまき、トラクターですき込めばいつでも畑は使えるようになります。

堆肥播きの重労働で体のあちこちがぎしぎし鳴って、節々の痛みを抱えながらその翌々日には車で市内の公民館まわりをして、会員募集のポスターはりを終えました。

そしてその二日後、今度は簡易トイレと小屋作りの材料を横浜市の青葉台まで引き取りに行ったのです。

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同上

いよいよ、会員受け入れのための施設作りに取り掛かりました。移動式の簡易トイレは新品で買えば10万円以上なので中古を安く譲り渡してくれる奇特な人が現れました。

この人物、実はゼミの1年後輩のSさんで、2000年から横浜市の青葉台を中心に田園都市線沿線に十数か所の市民農園を経営していたのです。横浜の「ドミタス」農園といえばこの世界では知らない人はいません。

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屋根もつけて完成形が見えてきた

NPOを立ち上げるときSさんの経営する農園を訪ね、市民農園の設立、運営など基礎的なことを教えてもらったこともあり、今回の体験農園オープンに際しても物心両面で多いに助けてもらいました。

まず、簡易トイレはSさんが所有している中古品を安く譲ってくれたこと、さらに物置小屋の作り方から建築部材の無償提供、果ては建築に必要な諸道具まで貸してくれました。そしてそれらを運ぶ小型トラックまで貸してくれたのです。

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会員Mさんが壁のペンキ塗りを担当してくれた

Tさんと二人、田園都市線で「ドミタス」農園を訪ね、16号線を使って所沢まで運びました。途中、行きかう車からトラックの荷台にくくりつけられた簡易トイレを見て奇異な視線を投げかけられました。

3時間近くかかり所沢に到着し、一旦荷台のものを総て降ろしたところで夕方に差し掛かかり長い一日が終わりました。

翌日からさっそく小屋つくりにかかりました。

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ペンキのうえから看板代わりの農園名を書く

まずSさんが書いてくれた設計図にもとづき、基礎となる支柱を建てることから始めました。専用の穴掘り機で地下60センチの穴を掘ります。両足を踏ん張り、二本の柄を両手に持ち頭の上まで振り上げて、一気にスコップを地面に突き刺します。この道具は二本のスコップを一本につなぎ合わせた構造で、土を挟み込み、かき出す仕組みになっています。このかき出し作業を何度となく繰り返すと、情けないほど簡単に息が上がります。

ひとつの穴を掘り下げるのに当初は7〜8分もかかりました。ここからTさんに加えTさんの知り合いのNさんも加わっていただき、小屋の完成まで3人で作業を続けたのです。

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雨どいもつけてほぼ完成

Nさんは元航空自衛隊のパイロットで飛びぬけた体力の持ち主です。力仕事はTさんとわたしの二人分を一人で片付けてしまう、心強い助っ人です。


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横浜の「ドミタス農園」の設備

作業の流れを簡単に説明すると、支柱は建設用の不要になった足場丸太を使い、支柱と支柱を更に丸太でつぎ合わせるのが「ハコバンセン」という専用の針金です。「ハコバンセン」で丸太をつなぎ合わせ基本的な骨組みが出来あがると、屋根部分は雨が流れるように片側に傾斜をつけ、その丸太の上に「根太」を「ハコバンセン」で縛り付けます。次に「根太」の上に鉄製の「波板」を張り、「笠くぎ」で根太に固定します。屋根の上に腹ばいで乗りその姿勢のまま釘打ち作業を行います。ここまでくれば、あとはベニヤ板で周囲を囲って壁を作ります。釘打ち作業は「インパクト」という電動ドリルを使いました。


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同上 大いに参考にさせてもらう

最後に同じくベニヤ板をドアにして完成です。

生まれて初めての小屋つくりでした。材料と道具の正式な名称も使い方も知らず、とにかく前へ前へと突き進むしかありません。支柱を立てる穴の間隔を間違えて、何度か穴を掘りなおしたり、長さの違う支柱を組み合わせてしまったり、失敗の連続でした。

しかしこの失敗は後に、手狭になった小屋の継ぎ足し、休憩所用のパーゴラ、テーブル、椅子など総て自前で作るための格好のトレーニングになりました。


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同上 自前で何でも作ることも見習った

こうして簡易トイレと物置小屋の最小限の設備を整え、4月5日の「トコトコ農園」の開園にこぎつけることが出来ました。

40日間という短期間で農園のオープンまでこぎつけることが出来たのは、何人かの協力者がいたからです。人とのつながり、縁の大切さをしみじみ思い知らされました。この人たちの一人でも欠けていれば、これほどスムーズに開園することは出来なかったでしょう。