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農のある暮らし

2011年10月20日 更新

第3章 新たな出会いについて

退職者の居場所


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広いスペースをとられるスイカ畑

開園3年目になる「トコトコ農園」は現在、男女あわせて30名の会員で構成されています。「トコトコ農園」をオープンするにあたっては二つの目的を考えました。


目的の一つはNPOの趣旨である都市住民が安全・安心な野菜作りを体験することで農業を身近なものと感じ、農業への関心をより一層高めてもらうためです。

目的の二つ目は退職者が適度に体を動かし、地域の人たちと交流できるような場として農園を位置づけました。地域の人とは退職者、特に男性を想定し、「トコトコ農園」が彼らの居場所となることを考えていました。

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均等配分した収穫物を各自持参したかごに入れる


そしてこの二つの目的をうまくかなえるために、農園の運営方法を少し工夫しました。

運営の基本は「協同耕作・均等配分」というやり方です。なじみの薄い概念なので主として行政が管理運営する「市民農園」との比較で説明します。


一般的に「市民農園」は一つの畑を抽選により個々人に畑を所有区分し、年単位(通常は一年もしくは2年程度)で格安料金により市民を対象に貸付します。借りた人は作る野菜の種類と作業日・作業時間帯は自由に選択することができます。

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参加者全員でジャガイモの種芋を準備する

つまりマイペースで好きな野菜作りを楽しむことができるのです。ただし道具、肥料、種苗、資材などは個人負担になります。水道設備がない「市民農園」では野菜用の水は自分で用意することになります。

また、作業の合間に休憩するような施設、汚れた手足や道具を洗う設備もすくないと聞きます。このように「市民農園」は自由度の高い分、自分で何から何まで準備しなければなりません。

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一つの畑に協働してジャガイモを植える

また所有区分された区画は限られたスペースのためスイカやカボチャのような栽培面積を広くとる作物は作りずらく、年間に作る作物の種類は限られてしまいます。

また少し専門的になりますが、ナス科やマメ科は同じ場所に続けて作ると連作障害がでて、うまく作物が育ちません。

ナス科に属する種類はナス、トマト、ジャガイモ、ピーマン、トウガラシなどですがナス科、マメ科以外でも植物分類上、性質の近い種類を同じ場所に続けて作ると障害がでる可能性が高くなります。このような理由で年間に作る作物の種類はおのずと限定されてしまいます。

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休憩時にスイカを切り分けて食べる

野菜つくりは案外奥が深いので、関連書籍からの知識だけでは難しい点が多々あります。特に初心者は農家やそれなりの知識と経験を持った人に実地で指導を受けたほうが賢明です。「市民農園」での野菜作りに限界を感じておやめになるケースを良く見かけますが、やはりノウハウ不足が一因です。それと加齢に伴う体力不足で特に暑い夏の作業が苦になることも理由に挙げられます。


「市民農園」のよさは個人の自由裁量に任されているので、周りに気兼ねなくマイペースで自分好みの野菜を時間に縛られることなく作る楽しみがあります。わずらわしい人間関係も気にせずせっせと野菜つくりに集中することが出来ます。

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収獲した小麦粉を使ってうどんを作る

野菜作りの経験と知識を持った人にとっては「市民農園」は魅力ある施設でしょう。ただ「市民農園」は一年もしくは二年という契約期間ごとに区画割を抽選で決めるルールになっています。せっかくお金と時間と手間をかけていい肥料を使い、いい土を作ってきたのに次の契約ではそれまでの区画を手放すことになります。野菜つくりは土つくりといわれるほど、土の良し悪しでいい野菜が出来るかどうかがきまってしまいます。上級者にとっては少し物足りなさを感じるかもしれません。


一方「トコトコ農園」が「市民農園」と顕著に異なるところは畑を所有区分せず、会員全員が協力して畑を耕し、ひとつの作物を作り、できた作物は均等に配分することです。これを称して「協同耕作・均等配分」と名づけています。


以下「市民農園」との違いを明確にしながら「協同耕作・均等配分」の特徴を列記してみます。

  • 1、作業日は毎週火曜と土曜の午前中2時間で会員は原則週1回の作業に参加します
  • 2、会員は年度始めに参加する曜日を決め、都合がある場合は適宜曜日を振り換えることが出来ます。また週2回参加してもかまいません。
  • 3、作業日前日までにインターネットメールで作業内容・作業手順書をあらかじめ連絡し、作業日当日は連絡内容に従い作業を進めていきます。
  • 4、年間の栽培スケジュールに従い、畝単位に同じ作物を全員で栽培します。作りたい作物は年度始めに希望をあげてもらい全員で決定します。
  • 5、出来た作物は均等に配分します。ジャガイモ、スイカ、カボチャ、サツマイモなど貯蔵性が高く、配分しやすい作物は全員に均等配分します。
  • 6、貯蔵性が低い葉ものや成長が早くかつ傷み易い作物は出席者の頭割りで均等に配分してしまいます。欠席者はその分、配分にあずかれないことになります。
  • 7、会員の親睦を深めるために開園記念祝い(4月)、春の収穫祭(5月もしくは6月)と秋の収穫祭(9月もしくは10月)、忘年会に新年会などの行事を行います。
  • 8、上記の年間行事とは別に、ジャガイモ、ハクサイなどそのときどきの収獲物を畑で調理して楽しんでいます。また、夏のスイカ、冬の焼き芋は作業の合間の休憩時間に欠かさず賞味しています。

このように「市民農園」が個人の自由裁量で野菜作りを楽しめるようになっていますが、その点「トコトコ農園」は作業日、作業手順、栽培野菜の選定、配分のルールなど必然的に決め事が多くなります。

そのため制約をわずらわしいと感じる人には不向きかもしれません。また人との付き合いがあまり得意でない人もわずらわしく思うかもしれません。

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子供も参加したうどん打ち

しかし、制約の多さや人との付き合いのわずらわしさを超えて余りある楽しさも多いというのも事実です。

「トコトコ農園」の「協同耕作・均等配分」については珍しさも手伝ってかいくつかの雑誌や新聞も取り上げ、それを見た野菜つくりやNPO活動に興味をもつ方々の訪問を受けてきました。

その中の一人に千葉大学大学院の院生のT君が卒論のテーマに「市民農園」を取り上げ、実態調査対象として「トコトコ農園」を訪れました。そこで現会員にアンケート調査を行いその結果を後日、きちんとした印刷物として届けてくれました。

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育苗室も会員の協力で作り上げる

それによると現会員の大半が3年以内の「市民農園」経験者です。「トコトコ農園」の入園動機で最も多かったのが「協同耕作・均等配分」でした。また入園後の「トコトコ農園」の一番の魅力は「会員同志の交流」を上げており、二番目が「協同耕作・均等配分」でした。

アンケート結果を大まかにまとめ、浮かび上がった会員の標準的なプロフィールは50〜60歳代の男女でアウトドア志向が強く、もともと野菜つくりに興味がある「市民農園」経験者であることがわかります。

50歳代までの会員は仕事を持つ現役です。60歳代では完全リタイアした人とまだ仕事を続けている人が3割ほどいます。仕事を持っている人は毎週火曜と土曜の作業日を休むこともままあります。

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同上

そのときは休んだ人の分をカバーするように参加者が代わって作業をこなしています。「協同耕作」のよさは仕事のあるときは気兼ねなく休むことが出来る点です。休むことで精神的に負い目をもつ必要はありません。会員同士お互い様の気持ちでなんのこだわりもなく、粛々と作業を進めていきます。

お互いが助け合い一つの作物を作るうちにおのずと連帯感、あるいは仲間意識が芽生えてきます。新年会や忘年会、年2回の収穫祭など目に見える形での「会員同志の交流」も楽しみですが、日常的な「協同耕作・均等配分」を通して日々「会員同志の交流」がはかられているのです。

「トコトコ農園」の会員構成を見ると現役の方も多数会員になられ、何かといそがしい主婦も加わり、今では全会員数の約40%を女性が占めています。

特に女性会員の多さは全く当初見込みを大きく超えました。しかしこのことは結果的にはプラスの誤算でもありました。


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恒例の忘年会

やはり女性が一定の割合で含まれると、雰囲気が和らぎ、収穫祭や日常的な休憩のとき、女性の細やかな心使いがスムーズな農園運営を可能にし、多いに助かっています。


企業社会に慣れ親しんだ男性は退職後も垂直的なものの考え方をしがちです。

年齢、社会的地位、会社のポジションなど縦社会を引きずる傾向が強いのが特徴です。

一方、女性の場合は逆に水平的なものの考え方になれており、男性ほど縦社会を引きずることが少ないといえます。

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同上

畑仕事に過去の企業社会における経歴はあまり大きな意味はありません。「百姓」は百の姓を持つという意味があります。姓はつまり仕事を意味するので、さまざまな仕事をこなせる人がほんものの百姓であり、畑の主役なのです。

農機具や道具の扱いがうまく修理ができる人、物置小屋を作り椅子やテーブルを作る大工仕事ができる人、重いものを持ち上げる力のある人、長時間畑仕事を続ける体力のある人などが重宝し、主役になるのです。

幸い「トコトコ農園」では縦社会を引きずるような人は一人もいません。