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農のある暮らし

2011年10月20日 更新

第3章 新たな出会いについて

まずは行動に移すこと


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母と子の米作り体験

一般論として人は加齢とともに新しいことに取り組むことが億劫になります。

特に携帯電話やパソコンといった機器の操作を苦にする人をよく見かけます。先天的な機械音痴という人でなければ、それほど時間をかけなくても一通りの使い方はマスターできます。携帯電話なら基本的な送受信が出来ればよいのです。パソコンもメールの送受信、ウェブ検索のイロハを最低限知っておけば十分です。

しかし何やかやと理由をつけて敬遠する人をよく見かけます。

私が所属する大学の地域OB会組織は200名弱の人たちが会員登録しています。そのなかでパソコンメールでの連絡先を登録している人が75%、残り25%が郵便かファックスで連絡を取っています。

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同上

連絡の受け手側はパソコンメールであろうと郵便であろうと、習慣化されていれば特に不自由・不便を感じないと思います。しかし、送り手側にとってはパソコンメールと郵便ではその事務処理量は雲泥の違いがあります。

情報の発信から受信までの時間を限ってみてもパソコンが5分、郵送が最低2日かかり郵送はパソコンメールより600倍弱の時間がかかります。


これは送り手が同じ内容の情報を複数の受け手に発信するケースですが、受け手の人数が多ければ多いほどパソコンの威力は増します。

また仮に受け手が5名、10名程度の少数でも連絡すべき頻度が多いときなどは事実上郵便で逐次知らせることは出来ません。メンバー間の情報共有が高い頻度で必要とされる場合、郵便に頼るメンバーには連絡をすることができません。

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種まきから始めた蕎麦打ち体験


このことは知人、友人間でも同じようなことがいえます。郵便やファックスに頼っているとついつい連絡が面倒になり、次第に情報の発信がおろそかになってしまいます。

もちろん通信手段の違いだけで知人、友人関係が壊れることはないでしょうが、疎遠になることは考えられます。あまりうまい喩えではありませんが遠距離恋愛がなかなかうまくいかないということに通じるかもしれません。

新しいことに興味を持ち、当初はうまくいかなくても思い切って挑戦してみることは必要です。思わぬところから新しい世界が広がる可能性があります。行動を起こさなければ何事も始まりません。

いまやパソコンや携帯電話によるウェブ検索でありとあらゆる情報が手っ取り早く収集することが出来ます。ウェブ情報は玉石混交でなかには正確性に乏しい情報もあります。

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同上

また情報の深さという点でも物足りなさがありますが、それをおぎなってなお情報の概要をいち早く知るという点において、きわめて使い勝手が良いのも事実です。

したがって大まかな情報はいとも簡単に知ることが出来るので、情報量とともに「知識」の量も格段に増えたように感じます。

ところがウェブ検索でこまめに「知識」を得ることが得意な人で、ときどき勘違いをしている方が見受けられます。「知識」を持ち「物知り」になったことで満足してしまうだけでは物事の本質は見えてきません。せっかくの知識は宝の持ち腐れになってしまいます。

では「知識」を本物に昇華するにはどうすればよいのでしょう。

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収獲した蕎麦を石臼で製粉

弘法大師空海は「知識」と「知恵」は異なるといっています。

「知識」を昇華するためには実践することと説いています。「知識」をベースに行動を起こすことではじめて「知識」が身につき「知恵」となるといっています。以下はこのことを比喩した空海の言葉です。行動派、実践家である空海の面目躍如の言葉です。


「妙薬函(はこ)に満つれども、嘗めざれば益なし、珍衣櫃(ひつ)に満つれども着ざれば則(すなわ)ち寒し」


退職後のライフスタイルをあれこれと考え、さまざまな情報を「知識」として集めても、行動に移さなければただの物知りにとどまるだけです。例えば団塊世代の退職者がその技術と経験を東南アジアや中国などで求めているという情報を得たとします。

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トコトコ農園で小麦を作る


パソコン画面に「団塊世代 退職者 再就職 東南アジア 中国」と入力しウェブ検索をかけると瞬時に5千件や6千件のかなり具体的な情報を得ることができます。職種もさまざまでけして技術者だけが売り手市場ではありません。専門の人材斡旋企業の情報もでてきます。

そこで実際に自分の足でより詳しい情報を集めてみることをおすすめします。最終的に海外に職を求めることになるかどうか、あれこれ考えていても始まりません。実際に海外で働いている人に経験話を聞き情報を足で集め多角的に検討し、多くの人に相談して意見をもとめる。その中には当然家族も含まれるでしょう。自分ひとりの頭の中で「知識」をあれこれこねくり回すよりも一歩踏み出すことでがらっと展開が変わる可能性があります。行動の過程でいろいろな「知恵」が湧き出してきます。


実はNPO活動の一環として昨年春から年4回のサイクルで「畑で婚カツ」というイベントを「トコトコ農園」を会場にして始めました。

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小麦の収獲と脱穀作業

基本コンセプトはNPOの活動目的である農業の活性化のための支援です。多くの人たちに農業体験を通じて農業を身近な問題として考えてもらうために、階層別の体験イベントを企画してきました。具体的には30〜40歳台の若い夫婦とその子供を対象にした「米作り体験」、主として中高年の男性を対象にした「蕎麦作り体験」、そして地元所沢の人たちに野菜作りを通して地域の農業を知ってもらうという狙いで「トコトコ農園」を開園しました。

ところが未婚の若い人たちは小さな子供をもつ夫婦に比べると食の安全や農業への関心も相対的に低く、加えて仕事を持っている関係でなかなか農業に接する機会が少ない層です。

そこで未婚の男女を対象にした農業体験イベントとして考えたのが「結婚」と「農業」を結びつけた企画です。

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出来た小麦粉を使ったうどん打ち

若い未婚の男女に畑に集まってもらい、実際に鍬を持って土を耕し、種をまき、野菜の収獲体験をしながら互いに打ち解け、農業を知ってもらうこと。さらに参加者同士がお付き合いまで発展すれば双方の思惑が一致するのではないかと考えたのです。

汚れてもいい普段着で参加してもらい、青空の下で協働作業を行い昼食も参加者全員で作ってもらう。開放的な雰囲気のなかで心も普段着で互いに飾らずに自分のよさをアピールしてくれれば必ずいい出会いが出来るだろうと考えました。


この企画を立てるにあたり老若性別問わずだれかれとなく趣旨を説明したところ、ただの一人も反対する人はいませんでした。独身女性を3人ほど集めモニタリングもしました。いくつか懸念材料が出ましたが、おおむね企画自体の評価は高いものでした。

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「畑で婚カツ」のワンシーン

大多数の企画は必ずといっていいほど慎重論や反対論がある程度でてきます。しかし今回の「畑で婚カツ」は見事なくらい賛成、肯定的な評価をもらいました。

企画の狙いが間違っていないことを確信したので、意を強くして即実施に向けての準備に取り掛かりました。もちろん準備のなかにはパソコンを使い「婚活」情報の収集も含まれます。そこから二つのヒントを得ました。

ひとつは山形か秋田のJA青年部が企画した婚活イベントで、農家の独身男性に都会の未婚女性を引き合わせ、会場はホテルでした。着慣れないスーツを着た農家の独身男性がホテルというなれない場所で裃を着て女性に接していました。男性のぎこちない会話、行動が災いして結果は惨憺たるものでした。

二つ目は結婚相談専門の企業が企画したイベントです。

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同上・協力して参加者による昼食作り

ここも同じようにホテルの一室を会場にして2〜3分という短時間に相手を代える談話タイム方式でした。短時間で質問する内容は出身地、仕事、趣味だけで終わってしまいます。結局、お気に入りの相手を決める有力な情報は圧倒的に趣味に偏っていました。主催者がはじめから趣味が合うもの同士をグルーピングしたほうがよかったように思われます。

この二つの事例を反面教師として、「じっくり会話が出来る時間を設定する」、「普段着で飾らない自分をアピールする」、「あらかじめ共通の趣味・趣向を持つ人だけを集める」を基本的な設定としておさえておくことにしました。

「畑で婚カツ」イベントの告知はNPOのホームページ、埼玉県庁発信のメールマガジン、西武鉄道の広報誌への掲載、地元紙の取材依頼、「畑で婚カツ」専用ブログの立ち上げなど費用をかけず告知をしました。

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同上・ここから2組のカップルが誕生

その結果、昨年の春秋2回ずつと今年の5月の計5回実施して、延べ100名弱の人たちが参加しました。

参加者は基本的にアウトドア志向の強い人たちで、互いに趣味嗜好が合うところから打ち解けるのにさほど時間がかかりません。ほぼ丸一日、畑で協同作業をすることで親密感も深まり、参加者はイベントが終わってからも最寄り駅の飲食店で自主的にオフ会を開いていたようです。

そしてこの秋、2組のカップルが誕生して1組は先月9月に結婚し、もう一組は来月11月に結婚式を挙げる予定で、私も主賓の一人として招待され出席する予定です。

イベントの結果は思惑通りとなり、十分な成果をもたらしたと考えています。


このように「農業」も「婚活」も世間の関心をひきつけるアイテムであることは皆さんご存知です。得ようと思えばいくらでも情報は手に入れることが出来ます。ところが情報として、あるいは知識として知っていて、なおかつ自分が主体になってやってみようと行動に移さなければ「知識」の段階にとどまっているだけです。

知り合いの農家で、若い部類に入るある人が「市民農園」のプランを温めていますが何年たっても具体的な行動に移しません。「婚活」イベントもやってみたいと考えて、いくつものアイデアを持っているといいますが、そこまでは多少のアイデアマンであれば考え付くことばかりです。問題はそれを実現するための具体的な行動を起こさなければ、単なるアイデア倒れの空論になってしまいます。