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農のある暮らし

2012年4月5日 更新

第5章 地域には誰でもできることがある

コミュニティビジネスとは?


私たちの生活に欠かせないさまざまな地域サービスは行政が一手に担ってきました。

住民の安全を守る警察、消防、防災、緊急の病気やケガに対応する救急医療や日常的な健康相談のサポート体制、そして上下水道とゴミの回収、道路や街灯の設置といったライフラインの整備と保守、幼児、子供の保育教育事業、文化的生活を支える図書館、文化ホール、スポーツ施設等の維持管理、各種証明書の発行など快適な地域住民の生活を支えるサービスの原資は住民と企業が支払う国税、地方税、事業税で賄われています。

いまのところ行政による地域サービスは行き届き、ほぼ満足できる状況にありますが、行き届かない点も多々あります。

例えば高齢者や障害者の孤立死、子育て支援、老人介護、個人商店の構造不況、シャッター通り商店街の広がり、都会の中の限界集落と買い物難民の増加、そして地域農業の衰退と地域環境悪化など行政だけでは解決できないさまざまな問題があります。

今後、地域サービスを行政が総てカバーするのは難しい状況になりそうです。なぜなら少子・高齢社会は働き手が少なくなる社会で、それは税金を納める絶対人数が減る社会です。すなわち満足のいく地域サービスを提供するための原資が不足する社会です。

また少子・高齢社会はなんら有効な手立てをほどこそなければ活気の失われた社会になってしまいます。

前章で触れたように例えば異文化との接触でダイナミックな社会へと転換するために移民政策を積極的におしすすめるといった思い切った取り組みが必要になるでしょう。

国家的なレベルでの話はこれくらいにして、少子・高齢社会のなかで地域のなかの一生活者として何かやるべきことがあるのではないでしょうか?

行政だけでは解決できない問題は日本全国が抱える問題です。

そしてその問題を解決するための取り組みは立派なビジネスになる可能性があるということです。福祉、医療、介護、あるいは子育て支援のような分野には民間企業がすでにビジネスとして手がけています。しかしこの分野に働く人たちはその働きに対して応分の報酬を得ていません。肉体的にもかなりハードな仕事で体を壊す人も多いと聞きます。また年間所得も低くモチベーションが保てず人の出入りの激しい業界です。

しかし高齢社会が続く限りニーズは常に存在するわけで、営利追及型の民間企業とは別に営利は追求するものの半分はボランティアとして活動する新しいスタイルのビジネスモデルが考えられます。

これこそがコミュニティビジネスといわれるビジネスモデルです。

半分ビジネス、半分ボランティアでは若い人たちが自立した生活ができないではないかという疑問が残ります。まして結婚をして家庭を持っている人は仮に共稼ぎをしたとしてもなかなか家族を養うまでの所得は得られません。

コミュニティ、すなわち地域が抱える問題で行政がきめ細かな対処ができない分野を地域住民が主体になって解決するのです。その意味でコミュニティビジネスとは地域問題解決型ビジネスともいえます。そしてビジネス運営の主体は主婦や定年退職した人たちです。一定の生活基盤を確立している層が地域がかかえている問題にボランティアで積極的に関わっていただく。ただし、純粋なボランティアは長続きしにくいという難点があります。人は善意だけでは動かないという側面があることは否めません。

金儲け、あるいは利潤追求とも少し違うニュアンスで善意の見返りがあると、次につながるモチベーションになります。

現実的なことですが、交通費や昼食代のような小額でも毎週、毎日のこととなればそれなりの負担になってきます。持ち出しはできれば少ないことに越したことはありません。

そこでボランティア要素にビジネス要素を取り込む必要性がでてくるのです。

ビジネス要素には継続的な活動のための資金捻出とモチベーションを維持する二つの目的があります。

最終的には活動を支えるための資金を得ることですが、そのためのプロセスもまた重要な要素が含まれます。

まず目標を定め、その目標をクリアーするために計画(予算)をたて、クリアーするためのアイデアを出し、計画に沿って各自の役割分担を明確にする、これは企業であればどこでもやっている基礎の基礎です。

私が代表をしているNPOも地域農業の活性化を目的にしたもので半分ビジネス、半分ボランティアで活動しています。その意味ではコミュニティビジネスの範疇に入るものだと思っています。

またNPOとは別組織で昨年秋から農園で作った野菜を近くの戸建住宅団地内で週1回、市価の半値で販売しはじめました。

その動機は都会の中の限界集落と買い物難民の増加という問題が畑にほど近い戸建住宅団地内で起きていることに気づいたことがきっかけでした。

今から30〜40前に出来たニュータウンはどこも高齢社会の縮図の状態になっています。子供は独立して家をでて、残されたのが年老いた両親ばかりという現実。昼日中、特に寒い冬の時期は通りから人影が消えて閑散としています。かつて車を運転していた人も70歳を超えると車を手放し、唯一の足である私鉄バスを使って最寄り駅に出るしかありません。しかもバスの運転本数は極端に少なく、時間帯によっては1時間に1本という状況です。仕方なく駅前のスーパーに出て買い物をすませると帰りはタクシーを利用しているようです。

ここは500戸ほどの中規模戸建住宅ですが、半年間で約40軒ほどが野菜を買いに来てくれるリピーター顧客になっています。軽トラックの荷台に野菜を載せ、毎週水曜の午前中に販売していますが、顔なじみの人もでてきました。常連客が顔を見せないときは風邪でもひいたかなと心配になります。対面販売なので必ず二言三言、言葉を交わします。

これから気候が良くなり、販売する野菜の種類も増えてくれば確実に顧客は増えてくると予想されます。

しかし、毎回の販売額はしれたものです。ビジネスというのがおこがましいほどのスモールビジネスです。

コミュニティビジネスの特色はマーケットが限られているため、適正規模はごく小さいものになります。また利益優先で規模の拡大を目指すものではないので、有給で人を雇うところまではなかなか難しいのが現状です。地域の雇用促進につながるまでになるには更なる時間とアイデアが必要です。しかし、ビジネスとしての芽は確実にあります。

つまりコミュニティビジネスとは地域住民による地域住民のための地域ビジネスであり、地域住民同士がともに助け合い、支えあう「共助活動」といえます。

コミュニティビジネスを支える人も年を重ねれば、いつかはサービスを受ける側になります。そのときまた新しい担い手が現れ、ビジネスを引き継いでくれればこのビジネスは半永久的に存続する可能性が高いといえます。

そこに人がいればコミュニティビジネスは必ず必要になり、成立します。

定年退職された人で「仕事」が好きで、続けて「仕事」をしたいと考えている人はぜひ、身の回りで活動しているグループ、NPO、各種団体を探してみてはどうでしょう。