【JAいるま野会報誌2016年2月号の記事紹介】
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第三回、第四回で取り上げたJAいるま野と関谷農園の新規就農者育成の取り組みが、JAいるま野会報誌に掲載されていましたのでご紹介します。
下富で関谷農園の指導を受けている横山さんは、1.1ha(約1.1町)を耕作しています。
第六回は、農業分野での太陽光発電活用報告です。
筆者は、会社勤務時代に太陽光発電事業開発に関わったことがあります。その頃から道路の法面等を利用するアイデアはありましたが、いかに広い面積を覆うかばかり考えていました。ソーラーシェリング(太陽の光を発電と栽培でシェアする)による農産物栽培の話を初めて聞いた時には、パネルの陰の下で隠花植物でも育てるのかな、と思っていました。
ところが現地を見て“目からウロコ"というか“影は動く"ということを体感したのです。ソーラーのパネルとパネルの間の計算された空間から射す太陽の光は、太陽の傾きで動き、適度に植物に当たります。こんなあたり前のことが今まで利用されてこなかったのです。
<<ブルーベリー藤江農園>> 〜ソーラーシェアリング活用で快適な観光農園〜
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千葉県いすみ市の藤江農園では、ブルーベリー畑の上2.5mの高さに60cmのすき間をあけてソーラーパネルを設置する方法をとっています。ソーラーパネル幅は100cm前後が標準ですが、ここでは30cm幅の特製パネルを採用しています。
ブルーベリーは、あまり強い陽射しを好みません。太陽が移動するにつれパネルとパネルのすき間から適度に陽が当たれば十分なのです。
この農園でのソーラーシェアリングは、4つのメリットを生んでいます。
1.発電による売電収入 年間約300万円(筆者推計)
2.栽培に適度(3分の2)の日射量
3.観光農園としてパネルによる日陰が熱中症対策になっている
4.パネルを空中に張ったことで鳥が寄り付かなくなり、ブルーベリー実の防鳥対策になっている
心配なのは、台風などの強風災害ですが、パネル幅が30cmと細いので意外に風圧を受けず、訪問数日後、現地を風速30mの低気圧が通過しましたが、被害はなかったとのことでした。
筆者は夏の盛りに見学しましたが、地上2.5mの頭上のパネルは閉塞感が全くなく、青空が広く見えてそれなのにパネルの日陰では適度な涼しさを感じました。
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<<ソーラーシェアリングでサカキを栽培する取り組み>>
埼玉県北部の美里町でも平成26年からソーラーシェアリング事業が始まり、町を挙げて積極的に取り組んでいます。
この地区でも高齢化による耕作放棄地が増え農地の荒廃が進んでいます。一般社団法人メガソーラー機構が休耕地を借り上げて事業を展開しようと検討中に、美里町から説明会を開くよう熱心な要請があり、説明会を開催したところすぐに30名の地権者から休耕地を提供したいとの申し出がありました。
上部には約1m幅のソーラーパネルを20cm程度のすきまをあけて張り、下部の農地(田んぼ)では、サカキ(榊)の栽培を始めました。榊を選んだのは農業委員会や農林部の助言によるもので、栽培には直射日光が不要でパネル面積が多く取れ、しかも全国的な需要があり、農家の収入に寄与することでした。
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平成26年から27年にかけて建設したプラントは総発電出力3 MW(メガソーラー所沢の3倍)となっており、さらに6MWを計画中です。
また、耕作放棄地を転用するにあたって農林省の要求する営農再開(農地転用を許可する代わりに最低3年間はパネル下での栽培を続け、営農継続する場合は3年ごとに報告をすること)条件を満足し、ソーラー発電を20年間続けるために、地権者6人とで農業法人も設立し、持続的営農を可能にする有力な仕組みも出来上がりました。(環境ビジネス誌2014から一部引用)
埼玉県の上田知事も所沢市の藤本市長も、再生エネルギーの導入を積極的に進めるといっていますが、現実には農地の多段活用に対し現場の行政は色々と足かせをはめています。
農林省の指針では、農地にソーラーパネルを張るにあたって、農産物の収穫量が80%以下に落ちないこととか、ソーラーパネルを支える柱が埋まるわずかな面積の農地転用申請を求めているのです。
その申請のためにデータを作成し、申請書を整え、許可が下りるまで待たなければならず、資金調達、材料・工事手配等々を考えると優に1年以上かかってしまいます。
また、農林省は農地を3年以内に元に戻すことを前提としており、一時転用の3年後に継続する場合は、再びデータをそろえて申請しなければなりません。ソーラー発電20年間の農業継続が見込めない農家は、はじかれてしまいます。
高齢化、後継者問題がこれだけ深刻になっているのですから、行政は、農業の経営安定化のため最良といえるソーラーシェアリングに理解を示し、積極的に導入を推奨・支援すべきと思います。
<<ファームドゥ>> 〜群馬県で本格的にソーラーシェアリングに取り組み〜
群馬県は日照時間が全国4位と長く、埼玉県より地価が低いため、太陽光発電はかなり進んでいます。群馬県を拠点に農産物の生産・加工・流通・直売を手がける“ファームドゥ"という企業が、農業と発電事業を両立させるソーラーシェアリングの事業化(ソーラーファーム)に4年前から本格的に取り組んでいます。
超高齢化と後継者不足は群馬県でも深刻で、コメの反当り収入が6〜7万円の状態では1ha(約1町)でも60〜70万円の収入しか得られません。従って、「兼業化⇒非農家地主」の流れが強くなってどんどん耕作放棄地が増えています。
通常、農地を同業農家に貸す場合、1反1万円が借地料といわれています。耕作放棄地は農業委員会から改善命令が毎年あるため、草刈りしたりする管理の手間や経費がかかります。これを同社は1反8万円で借り上げるので、農家にとって8倍のメリットがあります。
耕作放棄地を太陽光発電に利用するには、そのソーラーパネルの下で農業を再開するのが農水省の条件です。そのためここでは、パネルの下でフキやからし菜を土耕栽培で、レタス・ルッコラ・ミツバ等をパネルを張ったハウスの中で水耕栽培しています。
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同社グループのソーラー発電は、営農型発電(ソーラーシェアリング)と、全面積を農地転用(農地⇒雑種地:税金は宅地並みとなる)したメガソーラーに分かれ、農業委員会や東京電力との協議中のものを含め78 MW(145ヶ所)もの出力となっています。(PROJECT DESIGN誌2015から一部引用)
相当な投資(190億円)をしていますが、筆者の試算では78 MWの出力による売電収入は、年間40億円もあることになります。
同社は、所沢市下富に新しくできた【食の駅】(続編第3回新規就農者の項で掲載)を経営する“農産物の生産から販売までを一気通貫で行う企業"で、【食の駅】のほか【地産マルシェ】【Farmdo】のブランドで首都圏(東京・埼玉・神奈川・千葉)に展開しています。
<<ソーラーシェアリングシュミレーション>> 〜もし、所沢市の農地全部にソーラーシェアリングを採用したら〜
筆者は先月、成田から新千歳空港へ飛び立つ飛行機の窓から眼下の地上を見てびっくりしました。以前、両方の空港周辺には点在するゴルフ場が、ペイズリー模様のように目に入ったのですが、いつの間にか、たくさんのメガソーラーステーション(何百枚ものパネルが集合したMW級のソーラー発電システム)が、田んぼや雑木林に幾何学的な模様で出現しているのです。
所沢は遅れている!! と、実感しました。
そこで、もし、所沢市の農地全部にソーラーシェアリングを採用したらどなるだろうと、ざっと試算をしてみました。
計算上は、年間約150億円の売電収入が得られ、所沢の全農作物年間販売額91億円(平成22年)をはるかに上回ります。もしこれが実現したら、土地から得られる収入は合計241億円となり、農業単独収入の2.5倍以上になるのです。
(次回へ続く)
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