根きり虫対策におわれた1年目
スイカのつるが伸びると5メートル以上になるので、市民農園のような限られたスペースではまず栽培するのは難しい。ましてやベランダ菜園ではスイカ作りは更に難しい。
2009年、1反(1000平米)の畑でスタートした「トコトコ農園」では、広い畑を有効に使い市民農園では作るのが難しいスイカをぜひ作って見たいと思っていた。
5月の連休直後に、近所の農家に紹介された都下瑞穂町の苗農家からトマト、ナス、ピーマンとともに15株のスイカの苗を購入して移植した。株と株の間を80センチほどあけ横一列に移植した。
うまく根がつき始めた頃、次々と根元からしおれるように苗が折れている。茎の根元を見ると何かに鋭く切られたような跡がある。
15本中、13本がしおれた状態になっていてほぼ全滅の状態だった。
どうやら根きり虫が犯人のようだ。しおれた苗の根元の土を掘り返すと2〜3株から根きり虫が出てきた。
思いっきり怨念を込めて地下足袋の靴底で踏んづけてやった。プッチというかすかな音を鳴らして根きり虫は跡形もなくつぶしてやった。少しは気が晴れたが、しかし再度やり直しを強いられた悔しさは残った。
もう一度苗を購入してやり直すか、まだ間に合うので種から苗作りをするか迷ったが少し多めに苗を用意したほうが良いだろうと判断して自前の苗作りを選択した。
サカタの「紅しずく」という小玉の種を求め、苗作りは順調にすすんだが、問題は根きり虫対策をしっかりとらなければ、いたちごっこになってしまう。そこで会員に声かけして、農薬に頼らないという条件付きで対策を調べてもらった。農薬に頼らないとなれば物理的に苗を守る方法しかない。
根きり虫はネーミングとは違い、実際は根を切るのではなく茎の地上部分すれすれのところを鋭い歯でスパッと茎を噛み切ることがわかった。
ならば、切られそうな部分を何かですっぽり包み込んでしまうのが理にかなっている。
問題はすっぽり茎を包み込むその何かを工夫することである。この方法を調べてくれたのが会員のMさんだが、太いストローを縦に裂いて茎を包み込み、ビニールテープでしっかり閉じてしまう方法である。
ところが100円ショップからホームセンターをはしごして、太目のストローを探し回ったが残念ながら販売していない。
仕方なく一番細い透明のビニールホースを代用することにした。ビニールホースを2〜3センチの長さに輪切りにし、それを縦にカッターで切り込みを入れ、地面すれすれの茎の部分に巻き、その上からビニールテープではがれないように固定する。
この状態の苗を定植すれば、さすがのいたずら好きの根きり虫もお手上げだ。
この方法は翌年から継続してとりいれ、以後根きり虫被害は1件も起きていない。
しかし、肝心のスイカの出来具合だがやはり苗の移植が少し遅れたせいか、数量と味の点でお世辞にもうまく出来たとは言いがたかった。
けれど、真夏の炎天下での作業の合間に、冷やしておいたスイカをその場で切り分け食べるのは最高の贅沢だ。水分と糖分の補給にスイカは最適な作物である。
会員の間では休憩時間のスイカタイムは予想以上に好評で、翌年そして今年とスイカ作りは継続している。
2年目、「カメハメハ」を作る
2010年ははじめから苗を購入せず、タキイの「カメハメハ」という種類の種を買い、苗作りを始めた。「カメハメハ」は小玉で特徴のある楕円形をしている。この年は昨年の教訓を活かし、根きり虫対策を十分に施した結果、1本も被害を受けずにすんだ。
スイカやキュウリのようなウリ科で、つる性の苗は茎が柔らかく、風に弱いという特徴がある。春特有の強風をまともに受けると移植間もない若苗の茎が折れてしまう。そこでスイカの場合、主に風対策として、苗全体を覆うような特性のキャップをすっぽり被せることが多い。ちょうどドーム球場のような形をした半円球のキャップだ。
2〜3本の苗程度ならけして安くないキャップを被せてもいいが、大量の苗にいちいち被せるのは経済的でないので、写真のように切り竹を3本立てて、スーパーのレジ袋をすっぽり被せ、天井部分に空気抜きのためカッターで切りとってしまう。苗が元気に大きくなったのを見届けて、後ははずしてしまえばよい。
こうして根きり虫対策は思惑通りうまくいき、ツルが日に日に伸びてやがて黄色の花をつけ始める。ツルはその成長過程で、何かにからみつきながらのばしていく。「藁をもつかむ」思いのツルはなんにでも巻きつく。そこでスイカ畑全面に稲藁を敷いてやるのだが、稲藁は意外に手に入りにくい。特に「トコトコ農園」のある三富地域は典型的な畑作地域で、水田はほとんどない。
都合の良いことに2007年からNPOで始めたイベント「米作り体験」で収獲した後に大量の稲藁が出るため、その一部を回収して保管すれば、翌年のスイカ作り利用できる。
畑全面に稲藁を敷くと雑草防止にもなるし一石二鳥である。
畑のあちこちに縞模様の小さなスイカが実をつけている。実が大きくなるとくっきりとした縞模様が目立ち、鳥の格好の餌になる。
大きくなりそろそろ熟す頃に鳥害防止用のテグスを周囲と天井部分に張らなければならない。1年目、ちょうど2〜3個のスイカが獲り頃を迎えたので明日、テグス張りを予定していたら、その当日の朝に無残に鳥に食い散らかしたスイカを発見した。鳥もじっくり完熟する頃合を上空から観察していたのだろう。残念なことに相手は一枚も二枚も上手で一歩先んじられてしまった。
スイカ作り1年目は根きり虫と鳥にやられたが二年目には前年の教訓を活かし、しっかり準備した。もちろん鳥害防止のテグスは苗の移植と同時に張り巡らせ、事なきを得た。
ところでスイカは緑の地にあの独特な黒い縞模様が描かれるのが大きな特徴だが、実は黒く見える模様の色素は黒ではなく、緑が濃くなったものだそうだ。なぜどうぞ食べてくださいといわんばかりの目立つ縞模様なのか気になるところだが、鳥に食べてもらい種を遠くに播いてもらうためというのが有力な定説になっている。しかし本当のところはよくわかっていないというのが真相らしい。
また縞模様は種の位置と密接な関係があり、縞模様の部分に集中して種が配列しているのだそうだ。
スイカを切り分けるとき、縞模様を避けて包丁を入れると、切り口の断面には種が見えず、見た目にはきれいだが、食べるときには種を取り除きずらい。逆に縞模様の部分に包丁を入れると断面に種が現れ、容易に種を取り除くことが出来て食べやすい。
いろいろな作物を作っていると、首を傾げたくなるような不思議な現象に考えさせられることが多い。スイカもその一つである。
3年目、欲張って3種類のスイカを作る
そして2011年、3年目のスイカつくりは前年の「カメハメハ」(タキイ種苗)に加え、「紅しずく」(タキイ種苗)と「愛媛」(サカタのタネ)の2種類を加え、3種類作ってみた。畑のスペースが増えたこともあり、少しばかり色気を出して「カメハメハ」以外の種類も作ってみたかった。苗も昨年の4倍の78本も植えてみた。
3種類はすべて小玉系だが最も早く完熟したのが「カメハメハ」だった。小玉系は大玉系に比べ硬さ、シャキシャキ感が劣るといわれている。確かに「紅しずく」と「愛媛」はふわふわした感じで中身が詰まっていない食感である。
しかし「カメハメハ」は大玉のようなシャキシャキ感が心地よく、中身がつまっていて、小玉系の欠点を克服している。しかも甘さもほかの2種類に比べダントツに甘く、色も濃い。
初収獲した「カメハメハ」を休憩のときに皆の目の前で包丁を入れたが、その鮮やかな真紅に一同感嘆の声を上げたくらいだ。
今年は浮気心を起こして「カメハメハ」以外の種類を作ってみたが、会員の評価は「カメハメハ」がダントツに高い。来年は「カメハメハ」1本で行こうという結論になった。
今年の会員へのスイカの配分は一人6個ほどになった。今年ほどよくスイカを食べた年はない。
ところでスイカは果物か野菜かよく聞かれることがある。答えはスイカは立派な野菜である。野菜と果物とを分ける基準は草本か木本の違いによる。
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