赤とんぼ 筑波に雲も なかりけり(正岡子規)
秋の空はどこまでも高くどこまでも青い。雲ひとつない抜けるようなブルーを見上げていると魂まで吸い込まれていくような錯覚を覚える。その青を背景に赤トンボが空中を漂う。
日本の原風景を連想させる、ありふれた光景だが、今年は全く様相が異なる。
今シーズンここまで農園の畑でいまだ赤とんぼの姿を見ていない。
前号も触れたが飛んでいるのは時期外れのモンシロチョウばかり。おかげでアブラナ科のブロッコリーは青虫の絶好の餌食となり、葉の裏表を丹念に見ていくと糸くずほどの小さいものから丸々太ったやつまでかなりの青虫がいる。
太ったやつは、即雨水槽に直行して金魚の餌にしてしまう。生きたまま食われる苦しみを味わえ!とかなり凶暴な感情にとらわれる。
行水の 捨てどころなし 虫の声 (上島鬼貫)
秋の夜長にあちこちから聞こえる心洗われるような涼やかな虫の鳴き声。昔の人は風流で行水の水をかけて虫を驚かせることに躊躇した。
もっぱら保水のためになすなどの作物に麦わらを敷いているが、そのなかはコオロギの絶好の住処になっている。夏場の雑草を刈り取り積み上げ乾燥させていると、そこもまたコオロギがびっしり集まり暮らしている。
今年のコオロギの繁殖は例年にないくらい盛んだった。雑草や麦わらを片付けていると、一斉にコオロギが飛び出て四散していく。秋野菜の苗はコオロギにとって絶妙な柔らかさと甘さを感じさせるのだろうか、育苗途中の苗がことごとく彼らの胃袋に納まってしまう。
行水の水なんて生ぬるい、熱湯をふりまき、きゃつらの黒い背中を真っ赤に火傷させ、灼熱地獄の苦しみを味合わせてくれよう。
しずかなる 力満ちゆき ばった飛ぶ(加藤楸邨)
畑にとってはバッタやカマキリのような捕食性の昆虫は大歓迎だ。雑草を刈り取っていると、なにやらピ〜ンとはじかれたように物体が目の前を横切る。長い助走を駆け抜け踏みきりの足先に全エネルギーを集中させて踏み切り板から空中に飛び出す。走り幅跳びのアスリートには肉体の美を感じるが、バッタの跳躍は異次元のそれだ。助走もなしに立ち幅跳びのように地面を強く蹴るだけで自分の身長の何倍、何十倍も遠く高くジャンプする。
体長5センチのバッタは無風状態でも2m前後は十分跳ぶことが出来る。これを人間サイズにすると・・・身長170センチであれば、その40倍、実に68mもの距離を飛ぶことになる。
毎年春先にサツマイモの苗を植えている。今年はこれまでのベニアズマという種類から同じベニアズマ系の品種、ベニマサリとベニはるかの2種類に代えた。
代えた理由はベニアズマより小ぶりであること、より甘みが強いこと、つまり焼き芋として食べるのに適したものを選んだ。
42メートル長の畝にそれぞれ80本ずつ植えて、先ごろ収獲が終わった。ところが今年は季節外れの害虫により作物が被害を受けたが、サツマイモも例外をまぬかれなかった。
被害をもたらしたのは虫ならぬ野鼠である。
ざっと見当をつけて1割近くは彼らの鋭い前歯でかじりつくされていた。それも決まったように程よい大きさ、形のものを選び抜いたように食べつくしている。
3分の1程度かじられたものでも、そのまま捨てるのは偲びがたく、そこを切り取り早速、芋を蒸して全員で賞味した。
農園の会員は総じてサツマイモ好きな人が多い。戦中戦後生まれ世代はサツマイモとカボチャ嫌いの人が多いと聞く。米がなく代用食として食べてきた悲しい経験からだ。作家の野坂昭如などはある高級料亭を座談会会場にしたとき、出された前菜料理の素材がサツマイモだったことに本気で怒りだしたという。
所沢市内に「所沢航空記念公園」という日比谷公園の4倍ほどの広さの公園がある。広い園内には航空発祥記念館、野球場、テニスコート、サッカーグラウンド、野外ステージ、図書館、愛犬家用にはドックラン、人間様が走る整備されたランニング用トラック、日本庭園などがある。
公園に隣接する建物は市役所、警察署、税務署、法務局など公共施設ならびに立派な大小の音楽ホールを備えた「ミューズ」もある。
市民が文字通り憩うことができる公園だ。航空公園はもともと明治時代、日本最初の飛行場として整備され、戦後はアメリカの占領軍の基地に接収され、その一部が返還されて作られた。
秋空を 二つに断てり 椎大樹 (高浜虚子)
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