4年前の2009年、この年の2月初めに1反の畑を借り受けることが決まり、3月までの2ヶ月間であわただしく農園オープンにこぎつけた。
最低限の農具を買い揃え、設備としていの一番に購入したのが簡易トイレ。1反の農地に堆肥を2トン入れてすきこみ、農家から借りたトラクターで表面をならした。同時並行的に手作りの物置小屋を突貫工事で建てた。知人に簡単な設計図を書いてもらい、さらに小屋を建てるための道具類まで借りてきて、見よう見真似で何とか形にした。
畑の整備に目途が立ち、次にやるべきことは会員の募集だった。
地元で発行されている3つの地域新聞に農園オープンのパブリシティー原稿を送り、取材してもらった。もちろん、このホームページにも開園と会員募集の告知記事をアップして、周辺地域からの会員も募った。
3月からの正式オープンが理想だったが、1ヶ月という短期間ではさすがにそれはかなわなかった。
また3月には開園前だったがとりあえず先行してジャガイモの種芋を20kgほど植え付けた。
いま思い返すとわれながら4年前のあの当時は随分馬力があった。
農園の運営がうまくいくかどうか、会員が集まるかどうか、そんな心配をする時間も惜しんで、とにかく目の前の準備作業に日々追われていた。最初は5人でも10人でも会員が集まり、あとはひたすら前を向いて突っ走れば何とか目途は立つだろうと、腹をくくっていた。
2009年4月の第1週目の土曜日を正式な開園日として、会員の初顔あわせを行い、ささやかな開園記念食事会を開いた。
物置小屋もひとまず形になり、簡易トイレも畑にぽつんと置かれ、ジャガイモの芽が出始め、貧相ながらなんとか農園の態をなしてきた。
集まった会員は12名だった。内訳は男性8名、女性4名。12名が多いか少ないかは判断の難しいところだが、地域新聞とホームページだけの募集告知にしては上々の滑り出しではないかと思っている。最終的には5月と9月に女性会員2名が途中入園したので2009年度末には14名の会員構成になった。そして正直なところ女性会員が6名というのはほとんど想定外だった。
会員数の年度別推移は翌2010年度が19名、2011年度が28名、そして2012年度は32名となっている。そして5年目の2013年度は40名を目標においている。
会員が増えていった理由は開園当初が1反(300坪)だった畑がその後、2反追加され、最終的には4反半(1350坪)に増えたためである。
2009年に入会した14名の会員は2名を除き、現在まで継続して会員になっている。
各年度ごとに会員の出入りは多少あるが、会員の継続率はきわめて高い。
継続率が高い理由は2010年にT大大学院生が「企業・NPOが運営する新しい市民農園」というテーマで「トコトコ農園」をアンケート調査ならびに直接取材した結果をまとめたものが参考になる。
会員に対する満足度アンケートによれば第1位が「会員同士の交流」、第2位が「トコトコ農園の運営システム」をあげていた。
「トコトコ農園」開園にあたっては運営形態を「協同耕作・均等配分」方式を採用した。
簡単に言えば、市民農園のように畑を小さく区割りして個人が好きなように野菜を育てるというやり方ではなく、会員が協力し合って野菜を育て、出来た野菜は均等に配分するというやり方である。
この方式は私が都下東久留米市で2年半一会員となって野菜つくりを習ったT農業塾の方式を踏襲したものだ。
このT農業塾の会員は一人を除き全員が男性で、しかも大半がリタイアした人たちだった。
週1回の作業と収獲を楽しみにして、農業塾通いが退職後のライフスタイルにしっかり組み入れられていた。
NPO事業として従来から取り組んできた米作りや蕎麦作り体験に加え、野菜作りを体験事業として立ち上げることを以前から考えていた。そしてこのT農業塾の経験を踏まえ、地元所沢で体験農園をオープンすることが出来た。
T農業塾の経験から踏襲したものは「協同耕作・均等配分」方式だが、あえて踏襲しなかったのは「機械・農薬・化学肥料」による慣行農業ではなく、「無農薬・有機肥料」による野菜つくりを採用したことである。会員の満足度アンケートで第2位の「トコトコ農園の運営システム」とは「協同耕作・均等配分」に加え「無農薬・有機肥料」による野菜作りも歓迎された要素ではないかと推測している。女性会員が多く集まった理由は食の安全・安心に関心が高かったのではないだろうか。
T農業塾では会員の交流を深めるために新年会、忘年会、春の花見、春と秋の収穫祭などのイベントを年間行事として組み入れていた。トコトコ農園でも会員の交流目的で同じように新年会、忘年会、春秋の収穫祭、そして4月は花見ではなく開園記念を行っている。
年間5回程度の交流イベントに加え、トコトコ農園では週2回の作業日にも実質的な「会員同士の交流」を行っている。
具体的には作業と作業の間に必ず20分前後の休憩をとることにしている。常備しているコーヒーを飲みながらつかの間のおしゃべりを楽しみにしている。そして今では夏は取り立てのスイカ、冬は焼き芋を食べるのが休憩の楽しみとして定着している。お湯は常設してある薪ストーブで沸かし、大きめの手作りテーブルを囲み福利費で買った茶菓子をつまみながらの談笑を楽しみにしている。
この薪ストーブは春の開園記念食事会で大活躍する。蒸篭で作る本格的「赤飯」は絶品だ。
春秋の収穫祭でも取り立ての野菜、根菜を使った料理もこの薪ストーブが活躍する。
このように畑でのコーヒータイムも赤飯作りも女性会員が主体になってすすめてくれる。
会員アンケート満足度1位の「会員同士の交流」はこうして日常的に行われている。
そして「協同耕作・均等配分」を通して会員同士に連帯感、一体感がおのずと醸成されていく。
またT農業塾の違いには畑を取り巻く環境の違いもある。
T農業塾の1反の畑の周りは団地やマンションなど一般住宅に取囲まれている。住宅地の真ん中に広がる広い畑はそれなりに趣はある。他方トコトコ農園の周囲は短冊形の1町歩(3000坪)の畑が並んでおり、そこに農家が点在している。雑木林もあって春には雉が畑を突っ走って横切る。
薪ストーブの薪はその雑木林に落ちた枝や間伐材を集めて燃料にしている。特に季節の良い春秋にストーブで沸かした湯で、熱いコーヒーを飲み、晴れた空をゆったり眺めるのは最高である。
池袋や新宿から西武線で30~40分の近さに、こんなのどかな田園風景が広がっているとは誰が想像できるだろうか。そしてこの豊かな自然を相手に本格的な農業に関わることができた喜びはたとえようもない。
5年目を迎えてつくづく思うことは、毎年同じ作物を同じ時期に作っていても、けしてマンネリ感はない。自然は常に変化していて、その変化に上手に適応できないと惨めな結果がまっている。いつも適度な緊張感を強いられるが、それがまた新鮮さを感じさせてくれる。農業はいつも繰り返しのようだが、深く関わればかかわるほど奥深さを知らされる。
2月は畑全面に有機肥料を播いてすきこみ、土のなかに多様な微生物を育み、3月からの本格的な春夏野菜の種播きに備える時期だ。
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ブログ:畑にそよぐ風(http://nougyoujin.blog.so-net.ne.jp/)