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トコトコ農園通信

2014年9月5日 更新

土は植物の成長を阻害する? 水気耕栽培による巨大トマト

理事 神山 光路

1985年、今から29年前「科学万博 つくば85」で注目を浴びた水気耕栽培による1本の巨大トマトを覚えていますか。たった1粒のトマトから1万個以上の実をつけ、世間の度肝を抜いたあのトマトです。

進化する科学を誰でも理解しやすいようにアピールする科学万博において、この巨大トマトが果たした役割は絶大なものでした。

普通に入手できる1粒のトマトの種から大木のような太い幹と水平方向に枝葉を広げるトマト。14メートル四方の展示スペースいっぱいに枝を伸ばし、生い茂った緑の葉とたわわに実る赤いトマトは、まるでジャングルを連想させてくれました。そして収穫された完熟トマトは半年間の万博期間中になんと1万3千個に達しました。


通常であればトマトの栽培は込み合った枝葉の間引や脇芽欠きといった整枝作業が欠かせません。しかし巨大トマトは枝葉を伸びるにまかせる自由放任栽培です。枝葉は厚く重なり合い、特に下層は日の光が当たりにくいジャングル状態でも、枝葉は黄変せずしっかり実をつけました。

巨大トマトというと収穫する実がスイカのような大きさになると思われるかもしれませんが、幹の太さや枝葉の茂り具合は常識を超えたものですが、果実は普通の大きさと変わりません。


この巨大トマトは当時テレビのニュースとして見ただけで、実際に見る機会はありませんでした。しかし、今回ふとしたことから巨大トマトと対面することができました。

巨大トマトを育てている場所は札幌市の郊外、新千歳空港の手前の恵庭市にありました。

道央自動車道の恵庭インターを降りてほど近い「えこりん村」という観光農場の一画です。

巨大トマトはビニールハウスの中で育てられていました。ただし育てているトマトは1本だけなのでビニールハウスといっても農家にあるような大きなものではありません。少し広めの家庭菜園のスペースで十分です。


ビニールハウスの中央にある水槽から巨大トマトの太い幹がぐいっと伸びて、その幹を中心に同心円状に枝葉が広がっている姿かたちは大きな盆栽という感じがします。完熟した真っ赤なトマトとまだ青いトマトが混在して、枝葉は健康そのもの、黄変や枯れているものがありません。重なり合った枝葉の厚みは1メートルくらいありそうです。

ビニールハウス内に枝葉の上層部を観察できるようにステップが備え付けられているので、新芽があちこちから伸びている様子が見てとれます。

水分と肥料が均等に枝葉にいきわたっているのでしょう、生育状況にまったくばらつきがないことから容易に想像がつきます。


私がここを訪れたのが8月中旬で発芽(2013年11月中旬)から約260日を経過した時期でした。そしてこの時期の10日間に収穫したトマトの数量は6500個以上とあります。夏の暑いときにはトマトは水分をほしがり一日当たり200リットルの水を補給しています。

その水は日光による気温上昇に対処するため特に上層部の枝葉で吸収量が多くなり、葉の表面から水分を蒸発させ、気化熱で自ら温度を下げているそうです。


巨大トマトを育てる装置はいたってシンプルで、まず肥料を溶かした水を入れる「水槽」は縦・横・高さ1メートル・3メートル・10センチと意外に小さいものです。肥料入りの水を補充するための「給液ポンプ」、空気を水槽内に送り込む「空気混入器」、水位を一定に保つための「水位調節器」、それと「マイコン制御盤」、たったこれだけです。

この水槽の中は見学することはできませんが、水の深さ8センチの水槽に白い根が水槽全体を覆い、マットレスのように厚くびっしり張っています。そして根も枝葉同様、いつまでも白く健康な状態を保ち伸び続けています。健康な根は水分と養分をポンプで吸い上げるように均等に枝葉に送り込み続けます。「水気耕栽培」の優れた点は土と違いすべての根に均等に空気や養分を与えることができることです。

通常の土壌栽培の土の中には小石や堅くなった土、未完熟の堆肥の残滓など物理的障害が根の生育にマイナス影響を与えています。根は障害物を避けるようにストレスを感じながら伸ばしていきます。また肥料は土に均等に馴染まず、根にとって土が最適環境とはいいがたいといえます。

このように「水気耕栽培」と比較すれば、土は根にとってストレスの多い環境なのです。

また土壌栽培では作物の生育状況に応じて肥料の量、種類、施肥のタイミングなど臨機応変に管理しなければなりませんが、「水気耕栽培」ではその必要がありません。むしろ発芽の段階から肥料濃度を一定に保っておくことが根にとってはベスト環境なのです。


「空気混入器」の役割は十分な酸素を送ること、さらに空気の勢いで水流をつくり養分を均等に還流させています。さらに重要なポイントはこの水流が根に適度な刺激を与えている点です。

田んぼの取水口近辺の稲は水流の刺激を受け、育ちがよいことが経験的に知られています。人の脳の働きのように植物の根が水流の刺激を受けて活性化している様子はまるで植物自身が考えながら成長をコントロールしているようにみえます。

「水気耕栽培」が「水耕栽培」と異なる点が空気の「気」を常に送り込むことを重視している点です。


トマトの原産地はご存知の通り南米高地のアンデスといわれています。養分の少ないやせた土、寒暖の差が激しく酸素も薄い土地で育つトマトはもともと強い生命力をもつ植物です。そのためトマトは水も肥料もあえて最小限に抑え、いわゆる「苛め抜いて」育てるほうが、トマトの持つ生命力を引き出し病虫害に強く、より甘くておいしいトマトが育つといわれています。

「水気耕栽培」は「土壌栽培」とは一線を画し、よりストレスが少ない環境を整え、自由放任的に育てることを奨めています。トマトは日本のような亜熱帯気候のもとでは厳しい冬には枯れ死してしまいますが、熱帯気候では多年性作物として育てられています。つまりトマトは本質的に1年生作物ではなく、日本のような亜熱帯気候でも人工的な環境が整えば2〜3年は生育することが可能です。


また、「水気耕栽培」はトマトだけに効果が発揮されるのでなく、キュウリや栽培が難しいとされるメロンなども巨大化し、収穫数も飛躍的に増加することが証明されています。

植物はそもそもストレスのない最適環境を継続的に用意してあげればどこまでも成長していくことがこの巨大トマトの栽培例からわかってきました。

そして肝心なことは「水気耕栽培」で作られたトマトの食味は決して水っぽくもなく、トマト独特の風味も失うことなく土壌栽培とそん色ない味だったことを強調しておきます。


少ない栽培面積で生育管理に人手と手間がかからず、低コストで多収穫が期待できる「水気耕栽培」は後継者不足に悩む日本の農業にとって、救世主になる可能性を秘めていると思われます。


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ハウスの天井近くの様子

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温度が高い天井部分でも葉は元気そのもの

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花芽も茎もどんどん成長する

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同左

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小さなビニールハウスで巨大トマトが育っている



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